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水戸家庭裁判所土浦支部 昭和51年(少)862号 決定

少年 H・I(昭三〇・九・二九生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

少年院に収容する期間は、昭和五二年七月三一日を限度とする。

当庁が昭和五〇年七月三一日少年に対してなした保護観察処分決定はこれを取消す。

理由

(非行事実)

少年は、昭和五〇年七月三一日当庁において水戸保護観察所の保護観察に付され、現に保護観察中の者であるが、保護者および担当保護観察官、担当保護司の指導、監督にもかかわらず、依然としてシンナー嗜癖が改まらず、昭和五一年三月九日から右嗜癖を断つため○○市立病院に入院したが、約一月経つたころから右病院を抜け出してはシンナー吸入を続け、その後担当保護司が同人の経営する会社に就職させたが僅か四日間で辞め、そのうえ同人の名を用いてシンナーを購入して吸入を反覆するなど、保護者の正当な監督に服さず自己の徳性を害する行為を行う性癖を有するものであり、その性格、環境行状に照し、将来罪を犯す虞があるものである。

(適用した法令)

少年法三条一項三号イ・ニ、

(保護処分の理由)

一  少年は、昭和五〇年七月三一日毒物及び劇物取締法違反保護事件により当庁で保護観察に付されたが、その後担当保護観察官や担当保護司の熱心な指導にもかかわらず少年にこれを受入れる気持がなく依然としてシンナー嗜癖が改まらなかつた。少年は、勤労意欲が著しく減退し、右保護観察期間中数ヶ所で勤務するがいずれも二~一〇日と就労期間が極めて短かく徒遊、怠惰的生活が固着しつつあり、幻覚があるなどシンナーによる身体への悪影響も見えはじめている。このように少年に対してはシンナー嗜癖から抜け出す方法を早急に講ずる必要がある。

二  少年は、性格的には我ままで欲求阻止能力も減退しているうえに、シンナー嗜癖の影響から自助的もしくは自救的能力も著しく減退、鈍磨しており、少年自身にはシンナー耽溺から抜け出そうとする意欲が全くない。また少年が家族のものに対して時に暴発的行動を示すなどするため、保護者も少年に対する指導能力について自信も意欲も全く失つている状況にある。

三  以上の事実に照すと、少年がシンナー嗜癖を絶ち、かつ健全な社会人として社会に適応して行くためには、在宅保護には到底期待し得ず、この際少年を中等少年院に送致してシンナーから隔離させ、かつ規律ある団体生活を通じて性格を矯正し、職業訓練などを通じて勤労意欲を培養することが必要であると思料する。

四  よつて犯罪者予防更生法四二条、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項少年院法二条三項を適用して少年を昭和五二年七月三一日を限度として中等少年院に送致し、当庁が昭和五〇年七月三一日少年に対してなした保護観察処分決定は本件保護処分決定と競合するので、少年法二七条二項によりこれを取消すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判官 森本翅充)

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